過疎っているから投稿。コレは本当に洒落にならなかった出来事。
皆、高校時代を思い出して欲しい。恐らく、夜9時に寝て朝6時に起きる、などという規則正しい生活を送ったものは少ないだろう。多くは大体11時頃まで起きて何かしらしているものだ。私もその例に漏れず、健康的とはいえない生活を送っていた。
さて、そういった生活が祟ってか、多くの生徒は五時限目に睡魔に襲われる。授業が数学だった日には、ここそこで脱落者が出る。
その日、私がふと目覚めた時、数学講師は等差数列と等比数列、そして階差数列の問題を黒板にカツカツと書いているところだった。そろそろノートでもとらないと、一寸マズい事になるな、と大きく伸びをしようとした時だった。
――これが金縛りというやつだろうか? 体が動かないのだ。全くといって良い。まるで後から何者かに押さえ込まれている様な、いや、拘束衣を纏った様な、とでも言うべき不自由であった。
私は天に祈った。今まで持っていなかった信仰心が突如として湧き上がり、自分の知っている総ての神秘的存在に祈った。どうか私を解放してください、もう一度地上を駆け回る感触を味わいたいのです、どうかこの呪縛を説いてください。
マーフィーの法則が発動した。いや、天罰だったのだろうか。総てを地獄に引きずり込む声が聞こえた。
「じゃあ、寝ている人にやってもらいます。はい、そこ」
顔を上げずとも私には判った。ヒステリックな響きを持つその声が向けられている先が私である事が。しかし、私は目下金縛り中なのだ。顔を上げることが出来ずに、どうしてその問題が解けようか。声も出せないというのに。
「聴こえませんか、あなたですよ」
聴こえてはいる。しかし意思を伝達する手段が無い。そうこうしているうちに足音が近づいてきた。南無三。万事休すだ。多くの視線を感じる。いまや42対の目玉が私を見ているのだ。
机を指先で叩く音。反応無しと見てか方を揺り動かされ、呪縛が解けた。もしもここが深い森の奥で、私が悲劇のプリンセスで、講師が素敵な王子様だったら、小鳥達の素敵なダンスパーティーとなるだろう。しかし現実は違う。
むさ苦しい男子校の酸味を帯びた空気の中で、小鳥の歌に変わる叱責が浴びせかけられたのは言うまでも無い。