洒落怖・短編

【洒落怖】◆XUFEmXFwの小話9選【短編集】

死ぬ程洒落にならない話を集めてみない? PART9
http://curry.2ch.net/test/read.cgi/occult/1006021763/

 

1.ハト

17: ◆XUFEmXFw 01/11/19 00:54

確かネット上で見かけた話です.URLとかは忘れました.
下手すると笑い話ぽく聞えますが,私ははじめてこれを読んだときとてもこわかったです.
正確には記憶していないので,かなり脚色しています.

私の友人は,ハト好きです.そんな友人がある日,私に嬉しそうに話してくれました.
「最近,うちによくハトが訪ねて来るんだ」と.

彼はアパートに一人住まいなのですが,窓を開けて寝ていると,ハトが窓から入ってくるというのです.
はじめは警戒してか窓の側までしか来なかったのが,窓の中に入ってくるようになり,
いまでは寝ている彼のからだの上に乗っかってくるというのです.
しかし,そのハトが訪ねてくるのは必ず彼が寝ているときだけだというのです.
そのハトの姿を見たいとは思っているのだけど,下手に起きてハトが逃げ出し,
二度と寄り付かなくなっても寂しいのでがまんしている,と.

そんなハト,ほんとにいるんかな,と思いましたが,彼があまりにも嬉しそうなので無粋なツッコミは控えておきました.

それからしばらくして,私は彼の部屋に遊びに行きました.まだ残暑が厳しい日で,
部屋の窓は開けっ放しです.私は部屋で寝転んでいたのですが,友人は買い物に出かけました.
そのうち私はうとうととしはじめました.ふと気づくと,体の上に何か乗っています.
その体の上のものは「クルゥー,クルゥー」と鳴いているようです.

ああ,例のハトだなと思いました.
しかし,友人に,「もし俺の留守中にハトが来てもハトを見るな」と言われていたので,
目を閉じたままでいました.

(つづく)

 

18: ◆XUFEmXFw 01/11/19 00:56

そのうちそのハトはだんだんと私の足下から頭の方へと上がってきます.
しかし,何か変なのです.「この鳴き声は本当にハトの鳴き声なのかな?」.
どちらかと言うと,そう,人がうめいている声に近いような気がします.
いや,これは人のうめき声だ.「これ」はハトじゃない.
「それ」がだんだん頭の方に近づいてきます.
生温かい息が体に吹きつけられます.
「うぅー,うぅー」恨めし気なうめき声が私の胸の辺りから聞えてきます.
目を開けて正体を確かめるべきか.
いよいようめき声と生温かい息は首の辺りに….
そこで私は気を失いました.

次に目が覚めると友人が買い物から戻ってきていました.「ハトは訪ねてきたか?」.
無邪気にたずねる友人に本当のことを話すべきか.
私は迷いましたが,「いや」とだけ答えました.
そして,「ちょっと気分が悪くなったから帰る」と私は彼の家を辞しました.

その後も「ハト」は彼の部屋に訪ねてくるそうです.

 

2.写真集

29: ◆XUFEmXFw 01/11/19 02:28

皆さんが指摘した矛盾点には私も気づいていたので,
もう少し練ろうかと思いましたが,私の文章力ではこのレベルです.カンベンして下さい.

さてでは次です.
だいぶ以前に友人の家にあったマイナー雑誌に投稿されていたネタです.

ある心霊マニアの少女が友人に借りた心霊写真集を読んでいました.
なかなか洒落にならない写真ばかりで,彼女は大喜びでした.
ですが,最後の写真だけはおかしいのです.
ただ単に川が映っているだけで,霊らしきものはどこにもありません.

しかし,心霊写真の類には人から説明されてやっとそれだとわかるものも多い.
そこで彼女はこの写真集を貸してくれた友人に説明してもらおうと,
その友人の家に行きました.ところが,その途上にある川べりで人だかりが.
その川で溺死体があがったというのです.
しかもその死体は今から訪ねようとしている友人だったのです.
そこでその少女は気づきました.
あの写真集の最後の写真は確かこの川と同じだと.
そして,恐る恐るその写真集の最後のページを再び開くと,
そこには友人の顔が無念の表情を浮かべてはっきりと写っていました.

 

3.カメラマン

30: 外出ひらに容赦!! 01/11/19 03:23

続きます!雑誌ねた。

とあるカメラマンがなんの因果か自殺の瞬間をスクープしようというので
有名なそのテの名所(とうじんぼうか?)に隠れて見張っていたそうです。
何日か過ぎ、粘ったかいあってかどうやらそれらしい人が現れました。
カメラマンは不謹慎にも内心、大喜びでした。
レンズを換え、ファインダーを覗き、その人の行動をみていました。
その人は勿論自分がこれからやろうとしてることがカメラに撮られるなど
知るはずがありません。
絵に描いたような基本的な自殺前の心得(遺書とか)をしてその人はためらい
もなく崖に飛び込みました。
カメラマンもプロですからチャンスは逃がしません。見事スクープを撮りました。
現像の段階でカメラマンは蒼くなりました。
普通、飛び降り自殺するひとは飛んですぐ気絶するんだそうです。
現像したその写真には気づくはずがない距離、存在なのに
カメラ目線で、しかも二ィっと笑った顔で写っていたそうです。

 

4.コタツの上

51: ◆XUFEmXFw 01/11/20 00:05
私はひとり暮らしなのですが,コタツ机とベッドがすぐ近くにあります.
だからコタツ机の上においてあるテレビのリモコンなどもベットから
手を伸ばして届くのです.
で,ある夜.いったん電気を消し,ベッドに潜り込んだものの,
なかなか寝付けず,テレビでも見ようかなと思い,ベッドから手を伸ばし,
コタツの上を探りました.
すると.何か生温かいものが手に触れたのです.
えっ?と思っていると,それが私の手を握り返してきました.
そうです.それの感覚はまさしく人間の手でした.
私は飛び起きて,部屋の電気を点けました.
そしてコタツの上を見てみたのですが,そこには人間の手はもちろん,
それらしきものなんてありませんでした.

 

 

5.スキューバダイビング

60: ◆XUFEmXFw 01/11/20 01:05

私はある南の海で仲間たちとスキューバ・ダイビングを楽しんでいました.
空は晴れ渡り海の状態は非常に安定していて絶好のダイビング日和でした.
私は仲間のダイバーと二人で,あるダイビング・スポットを潜りました.
どんどんと深く潜って行ったのですが,ある地点で海底の異変に気づいたのです.

何かおかしい.

よくよく見ると,海底には一面に人間が生えていたのです.
連れのダイバーを見ると,呆然として固まっています.
海底から生えている人間の顔はどれも同じで,美しい少女でした.

 

62: ◆XUFEmXFw 01/11/20 01:07

どうしたらいいのかわからなくてしばらく眺めていると,
いつのまにか連れのダイバーがすぐ側に来て,私の肩を叩き,
ある方角を指差しました.
その方角を見やると,ダイビングの装備をまったくしていない,
至って普通の格好をした老人が鎌で少女たちを刈り取っているのです.

無表情だった少女は,刈り取られる瞬間,何ともいえない
苦痛の表情を浮かべます.
海中でも叫び声が聞えてきそうな表情でした.
しかし,その顔も,やがて切り取られた足下から広がる少女の血によって
見えなくなってしまいます.

そうして老人は少しずつ私たちの方へ近づいてきました.
やがて,私たちのすぐ側までやってきた老人は,
完全に固まっている私たちの方へ顔を向け,にやりと笑い,
手にした鎌を差し出しました.
まるで「お前たちもやってみるかい?」とでも言わんばかりに.

次に気づいたとき,私たちは二人とも病院のベッドの上でした.

酸素がなくなる時分になっても上がってこない私たちを心配した
仲間のダイバーが助けてくれたのです.

そのダイバーはわれわれが見たようなものは見ていないといいます.

「海ではいろんな幻覚を見るものだ.それが海の怖さであり,
素晴らしささ」と,その年長のダイバーは私たちに諭すように言いました.

しかし私ははっきり言えます.あれは決して幻覚などではなかったと.

 

6.無音のテレビ画面

65: ◆XUFEmXFw 01/11/20 01:33

夜中,私は一人でテレビを見ながら,いつの間にかうとうととしていました.
ふと気づくと,なぜか部屋の電気は消え,テレビの画面だけが
ぼおっと暗い闇に浮かび上がっています.

テレビ画面にはやたらと長い石階段が映っています.
生放送なのでしょうか.そこも暗闇に覆われています.
そして,まるで私が見るのを待っていたかのように,
画面は階段の上へと移動しはじめました.

画面にはまったく登場人物がいません.ナレーションもありません.
静かな暗闇の中,カメラマンをはじめスタッフらしき人たちの足音だけが
コツ,コツ,と響いています.

やがて石段を昇りきり,鳥居をくぐり,境内の森の中へとカメラは進んで行きます.

しばらくしてカメラは,ふと止まりました.そして照明が落とされます.
画面はほとんど真っ暗です.
私は部屋の電気を点けるのも忘れてその真っ暗な画面を凝視しつづけました.

 

66: ◆XUFEmXFw 01/11/20 01:35

かなり長い沈黙の後,さっと,白い影と明かりが画面上を横切りました.

そしてまた沈黙が続きます.

やがて,カーン,カーンと釘を打つような音が聞えました.
数分間その音は続き,それが終わった後,また白い影と明かりが画面を横切りました.

また沈黙.

やっとすこしだけ照明がつき,カメラは先ほど音がした方へと近づいて行きます.
足音からしてカメラマン以外にもまだ数名,スタッフがいるのでしょうが,
私がテレビを見はじめてから,まだ一言も人間の声が聞えてきません.

さて,しばらくして,カメラはひとつの木へどんどんと近づいて行きました.

その木の幹には藁人形が五寸釘で打ち付けられています.
その藁人形へさらにカメラが近づく.そして….

見なければよかった.

その藁人形には私の名が書かれ,私の写真が貼られたあったのです.

 

7.エクストリーム下男

74: ◆XUFEmXFw 01/11/20 22:54

その日,私は締め切りの近づいた論文を仕上げるため,
夜遅くまで研究室に残っていました.
研究室には,私の他に,大学院入学試験を控えた後輩の山村沙織も残っています.

そして夜11時を過ぎたくらいでしょうか?
沙織の携帯に着信がありました.
彼女は携帯をもって研究室を出て行きました.

しばらくして戻ってきた彼女は私のところへ来て言いました.
「せんぱ~い,しゃれになんないですぅ.今うちの親が電話してきたんですけど,
さっき,私の下宿に電話したら誰かが出たって.
それで一言も喋らずに勝手に切れちゃったって.
その後電話してもずっと話し中だって言うんです.
だから私も自分の携帯でかけてみたんですが,本当に話し中になってるんですよう.
どうしましょう?」
今度は研究室の電話で彼女の部屋に電話してみました.
やはり,話し中だそうです.

「なんなんやろー.今日ひとりで帰るの怖いですぅ.
先輩,部屋までついてきて下さいよー」
「ん~,そうね.じゃあ,今から帰ろっか?警察に連絡した方がいいかな?」
「警察に連絡したところでこれくらいじゃ取り合ってくれませんよ.
でも,先輩,ほんとにいいんですか?すみません.論文,大丈夫ですか?」
「まあ,今日はこれ以上ここに残っても集中できなさそうだからもういいよ」

(つづく)

 

76: ◆XUFEmXFw 01/11/20 22:57

そして私たちは彼女のマンションに向かいました.
彼女の部屋が近づいてくると,近所迷惑だということは十分承知していますが,
酔っ払いの振りをして大声で会話をしました.
そのなかで,部屋に居るかもしれない犯人(?)に部屋の主が帰ってきたのが
分かるように,いつもは私は彼女を「沙織ちゃん」と呼んでいるのですが,
わざわざ「山村さんさー」と名字で呼び,しかも,後から冷静に考えると
不自然なほど彼女の名前を連発していました.

やがて部屋の前に到着し,私は大声で酔っ払い風に
「山村家にとぉーちゃーく!」などと言っていました.
彼女は彼女で「あれぇ?なかなか開かないなあ?」
と,わざと鍵をガチャガチャさせながら,時間をかけて鍵を開けました.
これでもし,犯人が部屋に居たとしても,窓から逃げてくれているでしょう.

部屋の明かりを点け,恐る恐る部屋をざっと見渡しました.
誰も居ません.部屋も荒らされていません.
風呂,トイレ,押し入れ,ベッドの下,洋服ダンスの中をはじめ,
果ては,冷蔵庫の中や,便器の中,洗濯機の中まで調べましたが,
誰も居ませんでした.
窓の鍵も内側からしっかりと二重にかかっています.
人が入った形跡はどこにもありません.

沙織は「ああ,怖かった~」といいながら,ベッドに腰を下ろしました.
私も彼女の隣に腰かけながら「こわかったね~,なんやったんやろー」
と部屋の電話機の方へと目をやりました.
受話器はきちんと電話機にかかっています.
「まあ,接触が悪かったとかそんなんちゃう?」
私たちは緊張が解け,ほっと安心しました.

(つづく)

 

78: ◆XUFEmXFw 01/11/20 22:58

そこでふと私はあの有名な都市伝説を思い出しました.
少しイタズラ心もおこって,彼女にあの話をしはじめました.
「そうそう,沙織ちゃんは『下男』っていう話,知ってる?
ちょうどこんな感じで,ある女の子とその友達が…」
チャラリラチャリラララ~.彼女の携帯に着信がありました.
ディスプレイを見ると…,発信元は彼女の部屋になってます.
先ほどまでのほっとした空気が一気に凍り付きました.
彼女は携帯に出ました.
すると,その相手のおそろしい言葉は隣の私にもはっきりと聞えました.

「おい,そこの女に伝えろ.それ以上,俺のことを喋ったら必ず殺す」

 

8.蚊

116: ◆XUFEmXFw 01/11/22 00:57

さて,この話ははじめは「笑える怪談教えてくれ!」というスレに投稿しようと思ったんですが,
実際にこの環境にいると洒落になんないほど怖いんで.
もし,こんな環境にいたら,と想像しつつ読んで下さい.

私は大学院で生物学を専攻しているのですが,私の所属する研究室のある棟には
この季節になっても蚊が飛んでいます.
その大学院は,もう今の時期になるとかなり冷え込む,
日本でもかなり北に位置するところにあるのですが.
まあそれだけなら,研究棟にはほぼ24時間人が居ますし,だから
暖房もずっと効いていて,暖かいからかな,とも思うのですが,
この蚊がまた,「あんたホントに蚊?」と聞きたくなるほどデカイんです.
そのうち,実は生物系の研究室で遺伝子操作された蚊だとかいう噂まで出はじめて.
刺されると痒くなるだけじゃすまないんじゃないか,て.
あの蚊に刺された後,頭がおかしくなった人もいるという噂まで….
真偽のほどは分からないんですけど.
昨夜も,研究室にいると,ぶんぶんと耳元を飛び交っていて「刺されたらヤバイ」
とかなり恐怖で,きゃつの本体を見極めようと音のする方を探してたんです.
すると,一瞬見ただけだから気のせいだと私は信じたいのですが,なんとその蚊は
緑色なのでした(でもそれははっきりと蚊でした.でかかったけど).
今日,さっそく研究室の人たちに話してみたのですが,
さすがに緑の蚊を見たという人は誰もいませんでした.

おしまい.

 

9.肝心なところ

124: ◆XUFEmXFw 01/11/22 23:50

>>122,>>123

おお,さっそく感想ありがとうゴザイマス.

さて,手持ちのネタはこれが最後です.これは昔のバイト先での話です.

そのときのバイト仲間に暗い雰囲気の女の子がいました.
ちょっとおどおどした感じの無口な子です.
あまり好きなタイプじゃないなと思ったのですが,
私はその子と二人だけになってしまうことが多かったので,
手が空いたときにいろいろと話しかけていました.
しかし,これがまあ,盛り上がらない.
みごとなくらい互いが合う話題がないのです.趣味がまったく違う.

私はスポーツをするのも見るのも好きなのですが,彼女はスポーツにまったく興味がない.
彼女はゲーマーだけど,私はテレビゲームにはまったく興味がない.
音楽の趣味もまったく違う.
本好きということでは一致しているのですが,本の趣味が微妙に違う.
私は理系だから,ドーキンスやローレンツの本なんかが好きなのだけど,
彼女はニーチェだとかサルトルだとか….誰それ?って感じです.
しかし,読書は私たちの唯一の共通点のように感じたのでしつこく食い下がってみました.
すると「乱歩とか好き」「あ,私も好き!」「鏡花は?」「ああ,好き好き」
といった感じで盛り上がってきました.

「怖い話は好きなん?」「うん,結構」
「私も好きなんやけど,私自身は怖い体験したことないねん」
「私は一度,すごい怖い体験したよ」「え,そうなん?聞かせて聞かせて」
「うん.いいけど,霊とかそういうのとは関係ないし,少し後味悪いよ」
と意地悪そうな笑みを浮かべて彼女はその話をはじめました.

(つづく)

 

125: ◆XUFEmXFw 01/11/22 23:51

予想通り,と言っては失礼ですが,中学生の頃,彼女は酷いいじめに遭っていたそうです.

そんなある日の放課後.
彼女はしつこいいじめっ子たちの目から逃れるために
旧校舎の地下室,すなわち旧校舎の音楽室へと駆け込みました.
かなり不気味なところだったそうで,彼女は自分でも
よくそんなところにいったなと思うそうなのですが,
そういう曖昧な恐怖よりもその時は現実的な恐怖の方が優っていたから.
と彼女は言いました.
そして彼女はそこでまた別の部屋へと通じるらしい扉を見つけるのです.
あまりに定番なんで,「ほんまにそんな扉あったん?」と茶々を入れたかったのですが,
そのときの彼女の,なんというか,そのぼそぼそと語る様子がすごく怖くて,
とても横やりを入れる雰囲気はありませんでした.

さて,話を戻しますと,彼女は興味半分でその扉を開けました.
鍵はかかってません.そして扉の向こうにはさらに地下へ向かう階段があります.
そこで彼女は扉を開け放しにしてその階段を降りていきました.勇気ありますね.
しかし階段を降りている途中で扉がばたんと閉じられます.
彼女は驚きで階段を転げ落ちそうになりましたがなんとか踏みとどまり,
途中まで降りていた階段を慌てて昇りました.
扉を押しても(入るときは扉を引いて開けました),びくともしません.
試しに引いてみましたが,結果は同じです.
彼女を追いかけてきたいじめっ子たちの仕業だと思ったので,
がんがんと扉をたたいて叫びました.
「やめてや!出してよ!なんでそんなことするん!開けて!」
いつもならそこで,口汚ない罵詈雑言が飛んでくるところですが,
扉の向こうからは何の音も聞えません.

その扉は金属製の厚い扉なので,向こうの音が聞えないだけだ.
そう彼女は思おうとしたのですが,体はその思いとは反対に
がたがた震えてきて,冷たい汗が腋からつぅーと流れてきました.
いじめっ子たちの仕業なら,いくらなんでもそのうち出してくれる.
しかし,これがもし何かの拍子に勝手に閉まったのだったら?
そしてもし,誰にも発見されなかったら?

(つづく)

 

126: ◆XUFEmXFw 01/11/22 23:54

扉の向こうの地下室は地下室とはいっても半分は地上に出ているので窓があり,
まだ,薄暗いという程度だったのですが,この部屋には外からの光がいっさい入らず
真っ暗な闇で覆われています.
その闇がまた彼女の不安を増幅させていきました.
彼女は必死で扉をたたき,大声で叫びます.しかし,外からは何の反応もありません.
彼女はしばらく無駄な努力をした後,階段を降り,地下室の床に座り,
少し落ちついて,何とかここから脱出できる方法を考えようとしました.
彼女はふと思いつきました.扉には内側にも鍵がついているはずだ.
内側から開けられないはずはない.
だいたい,外から開けられなくても少し困る程度だが,
内側から開けられなかったら,それこそいまの自分のように生死に関わる問題だ.
学校の施設がそんなお粗末なことをしているはずがない.
自分でも意外な冷静さで以ってそう判断した彼女は再び階段を昇りました.

(つづく)

 

127: ◆XUFEmXFw 01/11/22 23:55

そして扉を手でなぞって鍵を探しますが,なんだか扉にはところどころ
突起物のようなものがあります.
それはともかく,鍵らしきものはなかなか見つかりませんでした.
すると,彼女の足に何かがコツン,と当たりました.
まさか….恐ろしい想像を一瞬彼女はしてしまいましたが,
思い切って足下を探るとどうやら懐中電灯のようです.ほっとしました.
もしこの懐中電灯がまだ生きているならだいぶん役に立つな.
彼女はあまり期待せず,手探りでスイッチを入れてみました.
すると,明かりが点いたのです.
よかった.彼女は扉をその懐中電灯で照らしてみました.

しかし.

そこには,その金属製の扉には,
人間の血まみれの,はがれた生爪が食い込んでいたのです.
そして「たすけて」という血文字が扉いっぱいに….

…そこまで話して彼女はにやっと私を見て笑いました.

しばらく沈黙が流れました.やっとの思いで私はかすれる声で聞きました.
「そ,それで?」「それで,て?」「いや,だから…」一番大事なことを聞いてない.
「あ,その懐中電灯で床を照らしたら白骨死体とか見付かったり…とか?
そしたらこの話ももっと怖かったんかもしれんけど,それは見なかったなあ.
まあ,実体験なんて,怖いといってもそんなもんやて.…それじゃ,そろそろ仕事に戻らな」.
いや,そうじゃなくて.もっと肝心なこと.

しかしその日は,いや,その日だけでなく,その後も,いまにいたるまで彼女と話す機会はありませんでした.
彼女はその日を最後に何の挨拶もなく,そのバイト先を辞めてしまったのです.

(おわり)

 

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