洒落怖・中編

【洒落怖】あなたに生霊が憑いてるわよ

死ぬ程洒落にならない話を集めてみない? PART10
http://curry.2ch.net/test/read.cgi/occult/1012201120/

 

350: ケチャック 02/02/05 11:30

3年ほど前のある日、目の前の女性に「あなたに生き霊が憑いてるわよ。」と言われました。
それを聞いて僕は思わず、笑ってしまいました。

それより1週間ほど前、友人(Y)から電話がありました。
「知り合いに霊能力を持っている人がいるんだけど会ってみる?お前、そういうのに興味が
あっただろ。」
聞いてみると、Yの姉の友達にそういう人がいるとのことでした。
Yもその人とは昔からの知り合いで、たまに家へ遊びに行っているらしい。
霊能者(A)と僕とYのスケジュールを調整し、実際に会ったのが話を聞いた1週間後だったのです。

Aに僕を見てもらい、彼女が口にしたのが冒頭の「生き霊が…。」の言葉でした。
正直その時は「ははぁ、Yとグルになってビビらせようとしてんな。」と思いました。
生きた人間の霊が憑いている、なんて突飛なコトに思えたのです。
だから恐いとは思わず、面白がっていました。
「で、その生き霊はどんな感じの人なの…」と訊く僕の顔はニヤニヤしてたでしょう。
彼女はそういう態度には慣れているのか、気にする様子もなく、生き霊の特徴を語り始め
ました。
女性。若い。多分20才前後。髪は長い。一重まぶた。首に小さいけど痣がある…。
それを聞いた時、イヤな汗がドッと出ました。その女のコト、知っている…。
その女のことをYは知りません。Yには話していません。と言うことはAも知らないはずです。
「…その女のこと、知ってるよ。半年くらい前に振った女だと思う。」
僕の声はかすれていました。

 

351: ケチャック 02/02/05 11:30

その女(S)とは身体の関係から始まりました。
知り合ったその日に僕がホテルに誘ったのです。
そしてホテルを出る前に、Sから「付き合って欲しい」と言われました。
当時、恋人はいなかったので軽い気持ちでOKしました。
しかし2週間ほどした頃に僕の気が変わり、一方的に振ったのです。
別れを告げた時、Sは泣いていました。が、僕は彼女に優しい言葉をかけるわけでもなく、
そのまま立ち去りました。
分かれた原因はSにもあったので「自業自得だ。」くらいにしか思っていませんでした。
その後、彼女からも一切の連絡もなく、僕のことなどとっくに忘れているだろう、と思って
いたのです。
僕は身勝手で非道い男でした。

ポツリ、ポツリ、とその経緯をAに語ったところ対処法を教えてくれました。
「夜寝る前に心の中でその女性に心から詫びなさい。それから枕元に塩を置くこと。
そんなにタチが悪い感じでもないから、それで大丈夫だと思うよ。取り憑いてるコはあなた
のコトを強く思っているだけで、生き霊になっている自覚はないから。」
Aの家を出、Yとも別れてから実家の近所にあるコンビニへ寄りました。

 

352: ケチャック 02/02/05 11:31

もう夜も遅くスーパーも閉まっていたので、コンビニで塩を買おうと思ったのです。
袋入りの塩と、夜食用のポテトチップス、飲み物を持ってレジに並びました。
Aの家を出たら、生き霊のことはさほど気にならなくなっていました。
今までこの3ヶ月、何か悪いことが起こったわけでもなし。
Aの家に行くまでは僕に生き霊が憑いてるなんて知らなかったし。
悪寒がするわけでもない、頭痛も肩こりもない。Aも「タチは悪くない」と言っていたし。
そのうち、消えてくれるだろう…。

「久しぶりだね。」
ふいに聞いたことのある声が後からしました。
長い髪、一重まぶた。首の小さな痣は服の襟に隠れています。
店内の少し離れたところにSがいました。
何気なく振り返った僕は、頭が真っ白になりました。どうしよう…どうしよう…。
「それ、誰と食べるの?」
Sは離れたところに立ったまま、明るい表情で訊いてきました。
「え…?」
「それ、誰と食べるのよ?」
Sは笑顔で買い物かごのポテトチップスと1.5Lのペットボトルを見ています。
「一人でだよ。」なんとか平静を装い、答えました。
「ふ~ん。彼女とじゃなくて?怪しいな~。」
そう言いながらも、こちらへ近づいて来ようとはしません。顔は笑っています。

 

353: ケチャック 02/02/05 11:31

「一人でだよ。」もう一度言いました。僕も笑顔を作りました。
今度は彼女はなにも言いません。笑顔で立っているだけ。
レジが僕の番になりました。彼女から視線をそらすきっかけができてホッとしました。
支払いをし、コンビニから出る前に店内を振り向きました。
先ほどと同じ場所にSが立っていました。笑顔でこちらを見ています。
「じゃ、元気でな。」
それだけ言うと僕は彼女の返事も聞かず、コンビニを出ました。

その夜は霊能力者のAに教わったとおりにして寝ました。

 

354: ケチャック 02/02/05 11:31
次の日、仕事が終わった僕は恋人と会うことにしました。
2ヶ月くらい前から付き合っている女性がいたのです。
彼女(C)は一人暮らしをしていたので、彼女の部屋に泊まろうと思ったのです。
一人で寝るのが恐かったのでしょう。
彼女の携帯電話に連絡し、Cを訪ねると部屋からは料理の匂いがしていました。
そして僕を出迎えたCは、この前、彼女の誕生日に僕がプレゼントしたプラチナの指輪を
していました。
Cの手料理を食べ、楽しくおしゃべりをしていると、余計にSのコトがチラチラと頭に浮かび
ましたが、彼女にはそのことは話せませんでした。
食事が終わり、キッチンでCが食器を洗っている間、僕はTVを観ていました。
すると突然、キッチンからCの「キャッ!」という短い悲鳴が聞こえたのです。
「どうした?」
ゴキブリか鼠でも出たか?と思い、Cのそばへ行ってみると、彼女は手のひらに乗っている
金属を僕に見せました。
僕が彼女にあげたプラチナの指輪でした。それが握り潰したようにひしゃげています。
「洗い物をするとき、大事な指輪に傷が付いちゃいけないと思って…。」
彼女はキッチンの横にある洗濯機を指さしました。
洗濯機の上にタオルがあり、その上に指輪を置いて食器を片づけていたようです。
「洗い物が終わって指輪を見たら、こんなになってたの。どうしてなんだろ?せっかく
くれたのにゴメンなさい…。」
Cが壊したのではないことはすぐに判りました。
Cの力では到底こんな風に変形させることはできないでしょう。

 

355: ケチャック 02/02/05 11:32

それに大事にしてくれていた彼女が、指輪を壊す理由も思い付きません。
Sの生き霊だ…。自然とそう思いました。その時、電話の呼び出し音が鳴りました。
僕の携帯電話の音です。二人とも突然の音にビクッとしました。

「ちょっと待ってて。」
Cに告げて電話を取りに行きました。液晶の表示は…非通知です。
予感がし、一呼吸を置いてから携帯電話のボタンを押しました。
「もしもし…。」
やはりSの声です。声は笑顔で話しているような、明るい調子。
「あ、も…」もしもし、と言いかけたら、そのままの明るい声で、
「嘘つき。」
と。
「え…?」僕が聞き返すと、
「嘘つき。」
もう一度、電話の声が言いました。
携帯電話を耳に当てたまま、部屋のカーテンを開け、窓を開けました。
2FにあるCの部屋から見下ろすと、コーポの前の道路に女性が立っていました。
部屋の真下くらいで、街灯に照らされたその姿はよく見えます。
Cの部屋を、僕を、見上げています。
まず気づいたのはショートカットの髪でした。そして襟のない服。首の痣。昨夜と同じ
笑顔…。髪を切ったSでした。
街灯の下でSの唇が動きました。

 

356: ケチャック 02/02/05 11:32

「彼女はいないって言ったじゃない…。」
携帯電話からSの声が聞こえます。僕は身動きが取れないまま、声にならないまま、考える
だけしかできませんでした。
(昨夜は本当に一人だったんだ。)
「私のことはあんなに傷つけたくせに…。」
(すまなかった。知らなかったんだ。許してくれ!許してくれ!許してくれ!許してくれ!許して
くれ!許して…。)
「どうしたの?」
Cの声がしたと同時に、街灯の下のS姿が消えました。なんの前触れもなく、突然。
僕の様子がおかしいので、気になったのでしょう。Cが僕のそばに立っていました。

窓とカーテンを閉めると、僕は座り込みました。脚に力が入りません。
Cも僕の様子を見て不安そうです。
僕はCにSのコトを全て話しました。Cは最後まで黙って話しを聞いてくれました。
枕の下に塩を置き、寝る前に心の中でSに謝りました。
明朝、とりあえず仕事へ行くことにしました。
いつもと同じ生活をしないと不安だったのだと思います。
Cに気を付けるように注意し、車で職場に向かいました。
その日もCの部屋へ泊まることにしました。
夜は何事もなく、朝を迎えました。
昨日と同じように車で職場に向かっていると、ワイパーにゴミが付いているのが見えます。
意識せず、ゴミを落とそうとワイパーを動かしたところで、それが何か気づきました。

 

357: ケチャック 02/02/05 11:32

人間の髪の毛が何十本も、ワイパーにからみついているです。
僕は叫び声を上げました。車を運転しながら、叫びながら、泣いていました。

その後の2週間ほどは色々ありました。
Cの部屋に無言電話がかかってきたり、僕の携帯電話にも非通知で着信が何度もありました。
でもその程度で、あの夜ほどの恐ろしいことは起こらなかったのです。
それも2週間ほどしたころにはパタッと止まり、僕は安心と不安とを感じていました。
なぜ突然、Sは僕を解放したのでしょう?

この3年間、ずっと不思議に思っていましたが、先日、たまたま寄った実家近くのスーパーで
疑問は解けました。
その親子連れを見かけた時、反射的に隠れました。
Sが2~3才くらいの男の子と手をつないでいます。その横にはSの夫と思われる男性がいました。
(そうか、好きな人が出来てたんだな…。)
僕はSの幸せそうな様子に心から喜びを感じました。
そしてCから取ってくるように頼まれていたサラダ油を棚から取ると、Cと1才になる愛娘のところ
へ走っていきました。