洒落にならないくらい恐い話を集めてみない?Part34
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友達Aに聞いた話。
Aはド田舎の病院で雑用をしている
んだが、ある日病院に見知らぬおばさ
んがやって来たそうだ。田舎なんで、
顔見知りでない患者さんが来ること
なんてまずないらしい。
で、医者が診察しようとすると、
とにかく言動がおかしい。あなたは
娘の目玉を取っただろうとか、あな
たの足は濡れています、とか、
支離滅裂な事を言う。
で、何が言いたいかよく分からない
んだが、どうやらその医者に文句を
言いたいらしい。
それで、もてあました医者がAに相手
をするように押し付けたそうだ。
まあ、追い出しても良かったんだが、
あやしい事に首を突っ込むのが好きな
Aは、とりあえずおばさんの話を聞く
ことにした。
Aは別室に案内しお茶を出したそう
だが、おばさんは腰を曲げて湯のみ
まで鼻を近づけ、くんくんと臭いを
かぐとプイとそっぽを向いて顔を
しかめた。そしてやたらと両手で
鼻のあたりを拭うような仕草をする。
それきり口をつけようともしない。
もうそのあたりで物好きなAのツボに
はまったらしい。で、話を聞き始めた
んだが、もう本当に何を言っている
のかさっぱり分からない。5秒もせず
に話題が次々に変わる。
どうも自分の娘が医者のせいで被害
を受けた、と言いたいのだろうかと
いうことだけかろうじて伝わった
そうだ。
しかし、この前河原を通ったらフナが
落ちていたとか、さっきの看護婦は
犬の臭いがするとか、ほとんどは
意味不明の話だった。
Aは段々おかしくなってきて、つい吹き
出して笑ってしまった。すると、
おばさんはキッとAを睨み付け、
ひじをちょっと曲げたまま両手を
前に突き出し、空中を引っ掻くような
素振りを見せ、そのまま走って帰って
いった。
Aはしばらく笑い転げていたらしい。
さて、その日の仕事を終え、家へと
帰る道を車を運転して通っていると、
竹やぶの中を通る道に差し掛かった。
すると右手のやぶの奥で、チラチラ
光るものが見える。
Aは火でも燃えているのかと心配に
なって、車を道に止め、やぶに分け
入った。山火事になると大変だからだ。
まだわずかに日が残っていたため、
薄っすらとだが足元は見える。しば
らく光の方へ進むと、どうも火が
燃えているのではないようだと分か
ったが、今度は光が何なのかが
純粋に気になった。
ふと気がつくと、あたりはもう真っ暗。
目指していた光もどこへ消えたか、
全然見当たらなくなっていた。
田舎の夜は暗い。その日は月も出て
いなかったのでなおさらだ。
身動きもとれない状態になって、
しばらくの間、途方にくれていた。
すると、少しづつだが暗闇に目が
慣れてきた。よかった、道まで
引き返そうと足を踏み出した瞬間、
自分の正面、数十センチも離れぬ位置に
人が突っ立っているのに気付き、
ギョッとした。腰が抜けた状態に
なってしまったそうだ。
ライターを持っていることを思い
出し火をつけると、背筋が凍った。
20代半ばの女が立っているのだが、
両目とも白く白濁していて、口を
パクパクさせている。そして、何故か
着ている服がAと全く同じなのだ。
上は茶色のジャンパーで下はアディダス
の3本ラインの入ったジャージ。服から
は獣臭さがプンと臭った。
そこでいったんAの記憶は途切れる。
気がつくと病院へと向かう道を
車を運転していた。あたりは明るい。
わけも分からずそのまま病院へ着くと、
医者が朝食をとっているところだった。
今日は早いなー、と言われ、Aはしばらく
ぽかーんとしていた。
どうも気付かないうちに一晩たって
いたらしい。しょうがないので、その
まま働き始めた。
すると、物を持つ時に両手が引き攣った
ように痛む。何故だろうと、手を見て
吃驚した。両手とも、指と指の股の
部分の肉がサイコロひとつ分ほどづつ
えぐられて、なくなっているのだ。
それを見たとたん、物凄い痛みに
襲われて、たまらず医者のところへ
駆け込んだ。治療してもらおうとすると、
おまえ唇どうしたんだ、と医者が
驚いた様に言う。鏡で見ると上下の
唇の肉がくちゃくちゃに噛み潰された
ような酷い有様になっている。
よく顔を見ると耳たぶも、やわらか
い部分の肉がほとんどえぐられて
無くなっていた。こちらも気付くと
同時に凄まじく痛み始めたそうだ。
なんか尻切れトンボだが、話はここまで。
今のところ、特に後日談もない。
おばさんにも竹やぶであった女にも、
その日以来一度も会わなかったそうだ。
このあいだ久しぶりにAと会ったが、
唇の傷はまだちょっと残っていた。
耳たぶはなくなったままだ。
Aは、狐に化かされたなどと時代錯誤な
ことを言っている。