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【洒落怖】裏山の廃墟【短編】

 

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206: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 02/09/13 15:44

大学時代のことです。

気が狂ったように勉強してやっと希望大学に入学出来たものの、
授業についていけない日々が続き、心身共に疲れ切っていました。
思い描いていた大学生活とは、実際の日々はかけ離れており、
ふとした時に自殺すら考えるようになりました。
これではいけないと、気晴らしに実家へ戻ろうと思い立ち、
その日のうちに飛行機を予約、北海道へと旅立ちました。

入学後、たったの3ヶ月で20キロ近くも痩せた私を見て母は驚愕し、
何も聞かずに寝所を整えてくれました。
厳格だった父も私の様子を見て、「無理をするな」と、
普段聞いたことのなかった言葉をかけてくれました。

実家に戻り2日が過ぎた頃、
枕元にさえ教科書を置いておくことが習慣になっていた私は
勉強をほうり出し、実家へ逃げ帰って来たことを少しずつ後悔しはじめました。
しかしあれは今から思えば、一種の強迫観念に駆られていただけだと思います。
やみくもに勉強したところで、頭に内容など入るわけがない。
母は私にそう言い、気晴らしに裏山を散歩することを勧めてくれました。
母の助言に耳を傾け、素直に母親はありがたい存在だと思いました。
今までそんな小さな、大切な感情ですら、
私は忘れてしまっていたのだと気付き、無性に悲しくなりました。

 

207: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 02/09/13 15:45

小学校低学年の頃以来、踏み込んだことのなかった裏山は
相変わらずそこに、そのままありました。
懐かしい思いをほのかに抱きつつ、私は雑草の生い茂る小径を進んで行きました。

平坦な道を200メートル程、左右に連なる針葉樹の群れを仰ぎながら進んだでしょうか。
先を行こうとする私の前に、突如一件の家が出現しました。
見るからに空家の、半ば崩れかけた外装、藁葺き屋根の、
北海道では昔、よく見られた光景です。

子供の頃、何度となくこの道を行き来し、
何人もの友達とこの裏山で遊んでいたのに、
私はこの廃屋らしきものの存在を忘れてしまったのか?

何かに引き寄せられるように、私はその廃屋へ近付きました。
玄関へ通じるはずの引戸はもうとっくに朽ち果てており、
かろうじて一ケ所の蝶番で繋がっているだけでした。
私はそこをくぐり抜け、表現のしようのない興味を胸に、その廃屋の中へと入っていったのです。

玄関を入ると右側に、二階へ続く階段、
左は長い廊下で、その先にはいくつもふすまがありました。
三和土の上を見ると、くすんだ鏡が自分を写しています。
階段の柱には、古ぼけた振り子時計がかかっており、
驚くことにそれはまだ時を刻んでいました。

時計が秒を刻む音が、なぜかしらどこか遠くから聞こえるような気がしました。

今思えばあれはきっと、何か強い衝動が私を動かしたとしか言い様がありません。
普段とても臆病な自分が、その廃屋の階段を上って行きました。

 

208: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 02/09/13 15:45

急な階段を上っている時、心臓の鼓動と振り子時計の秒針の音が
うるさいくらいに、まるで警告のように耳に響いていました。
階段を上り切った左手にふすまがあり、右手から差す日の光に、
ものも言わず、無気味に照らされていました。
すべての光景が黄色がかって、その場所だけが、その瞬間だけが止まっているかのような錯角を覚えました。
開けてはいけないという、先刻からの警告が確実なものとなり、
その意志とは正反対に、私の両手はふすまにかかり、それを開け放ちました。

畳の敷き詰められたその部屋は思いのほか広く、
部屋の奥には、仏壇の前に祭壇らしきものが奉られていました。
誰もいないはずのこの廃屋の祭壇には、果物や菊の花がたくさん供えられていて
その中央に、花に囲まれるように、女性の遺影がありました。
何かに引きずられるように祭壇へ近付いた私が見たその遺影は

見覚えのある高校の制服を着た、うつむき加減の、まぎれもなく私のものでした

 

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