愛のある精査で頼むぞ
十八から吸い始めたタバコとは付き合いが長い。
引っ越してからは部屋を汚したくない&ベランダは隣が迷惑すると耳に挟み共同廊下に出る生活。
ワンルームマンションなんで人通りこそ少ないがハラハラながらは美味くなく生きづらい。
けども外気を浴びると良いリフレッシュになる。煙吸っといてアレだが健全な感じで一年程。
階段部に座ると正面に一軒家を見下ろす形でどうしても目を引く。
二階の部屋はいつも電気がついているんで気になってた。
ある日の深夜に目が覚めて外に出た。ぼんやりしてるとカーテンが手の平ほど開いてる事に気が付いた。
中には本棚に雑誌、ハンガーにジャージ、物でごちゃごちゃ生活感がある。
距離にして20メートル程なんで見えるっちゃ見える。
以後は開きっぱなしでズボラな家だなと何気無く眺める日々。
数週間後、またも深夜に目が覚める。寝たら起きないタイプなんで稀な事。「寝なきゃ」と焦るよりは得した感が若干。
コンビニで酎ハイを買った帰りに自宅マンションの階段に腰掛けタバコを吸う。
祝日前ともあれば呑みながらゆっくり。電灯にタックルかます滑稽な羽虫と自分の人生を重ねながら、どうしても目には入る正面の一軒家の二階の部屋のカーテンの隙間が動いた気がした。
やっぱ人住んでんだなぁと当たり前の事を思いながら目を凝らすと斜め後頭部が緩慢に且つリズミカルに揺れている。
なんだかデカい。窓枠やらの比率からして平均的な人間のウエストほどあるような。
ギョッとはしたが錯覚だろうと切り替えて虫の声に耳をすましていた。
気持ち良くなって350㍉㍑の酎ハイの二本目に差し掛かる。
コンビニのビニール袋がカサカサと音をたてた。
途端に正面からシャッと別の音。カーテンを勢いよく開ける音だと察しがついた。
窓枠から身を乗り出したそいつはどう考えても顔がデカい。デカい顔に相応しいサイズの目と鼻。黒目がちのグレムリンの様だった。
だけど口元は人並みで髪は癖ッ毛の濡れたようなヘタッタ短髪。
直ぐ様逃走を決意したのは、そいつと目が合っていて、「また会った!」とか何とか嬉々とした声色で呼び掛けてきた。
こういうとき思考が高速回転するらしく、これは深淵を覗くものは~的なアレかと納得。
急げば10秒もかからない我が家のドアを開けるイメージを浮かべると、あいつに部屋を知られるといけないと思い立った。
十階建ての階段を駆け上がって壁に伏せ、バクバクうるさい心臓と共に数時間。
朝日が出てからあいつが居ないことを確認し、ひっそりと部屋に戻った。
それから少し寝て起きて考える。
これやっぱダメだなと引っ越しの手はずをとる。荷物をまとめて後は業者に任せる事にする。
それにしたって即日という訳にはいかず残りは外泊日を選択。
ドアを開けると、廊下、地面へと紙ヒコーキもどきがいくつも落ちていた。
広げて見るまでもなく自分の危危機管理能力を褒めようと思った。
紙屑の一つ一つに白く濁った液体が付着してた。
もちろん俺は男だしあいつも男だろう。
腹立ち紛れなのか純粋な好意による物なのかわかんないけど、不気味な事には違いない。
その後はもろもろ手続きを経て、離れた街へ引っ越し今に至る。
タバコは部屋の中で、空気洗浄機の前で吸うようになった。
どう締め括ったもんか迷ったけど、皆さんも覗きには気を付けてねというという事で。
[死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?356]
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