洒落怖・中編

【洒落怖】卒業して随分経つから書くけど、嘘をついた。

283: 本当にあった怖い名無し 2019/10/29(火) 00:21:31.91 ID:by+FRkPI0

もう随分前になる。俺がこの話を洒落怖に投稿したの。何年前になるんだろう。

この話を聞いたのは、高校1年のとき、入学したばかりのころだった。
日本史の担当をしていた先生が、この学校には曰くつきの場所があるんだよ、と教えてくれたんだ。

「井戸があるんですよ、ほら、あそこ、茂みの向こう…ここは高いから、わかりにくいかな」

先生は窓の外を指して、場所を教えてくれた。
俺たちのいた教室は5階にあったから、確かに見えない。
誰だったか、クラスメイトの一人が、あの駐車場のところ?って声を上げた。

「そう、駐車場の横の、茂みの奥に。碑も立ってますよ」

もう60歳ぐらいになるその先生は、授業を中断してまでその井戸の話をしてくれた。
入学したてとはいえ、授業は面倒臭い。皆静かに聞いていた。

 

284: 本当にあった怖い名無し 2019/10/29(火) 00:22:06.51 ID:by+FRkPI0

どうやら、俺たちの通うその学校は、ずっとずっと昔は城だったらしい。
室町時代に造られた城で、中々堅牢な城だったという。
非常に有名な某将軍と敵対して攻め滅ぼされたわけだが、激しい攻撃を受けても、長い間持ちこたえたそうだ。
けれど、結局水と食料が尽きて、落城した。
今だって田舎としかいえないところに建ってるわけだから、昔は本当に田んぼしかない場所だったはずだ。
落城は当然のことといえばその通り。しかし、城内の人間は頑なだった。

「身投げしたんです、あの井戸に」

水が尽き、もうどうしようもなくなった城に火が放たれ、燃え盛る業火の中、武士は皆切腹。
女性は全員、井戸に身を投げたらしい。
それほど落城が悔しかったのか、あるいは、辱めを受けるであろう今後の人生を憂えたのか…。
時代が時代とはいえ、凄惨な最期を遂げた城は灰塵となり、跡地には井戸だけが残ったという。

それから時は流れ、奇妙な噂が立ち始めた。
その井戸を覗き込むと、見えない何かに髪の毛を引っ張られるだとか、枯れているはずの井戸に顔が映るだとか、そうした目にあった人間は髪の毛が伸びる、だとか。

 

285: 本当にあった怖い名無し 2019/10/29(火) 00:23:28.75 ID:by+FRkPI0

「霧の深い日に、火の玉が浮かんでたなんて話もありますよ」

どうやら、身投げをした人たちの怨念が今も残ったままらしい。
まあどうせそんなオチだろうな、と思っていただけに、拍子抜けすらしなかった。
きっと、クラスの皆だってそうだったと思う。
その日は、そのままいつものように一日を終えた。

それからしばらく経った日のことだ。 確か、三者懇だったかなんだったかで、半日で放課になる日だったと思う。
そろそろ初夏を迎えるころ、最近暑いよなって話を友人三人としていた。
そうしたら、ある一人の友人が、そうだ井戸行こう、井戸、と言いだした。

「井戸ってあれ?先生が言ってた」
「そうそう。今はもう慰霊碑も立ってるしさ、行ってみようよ」

俺も、他の友人も、異論はなかった。俺たちはバスで通っていたから、スクールバスが学校へ来るまでは暇だったし、ちょうどいい時間潰しになると思ったからだ。
慰霊碑が立ってるってことは供養もされているだろうし、こんな真昼間なら怖くない、って。

SHRが終わってすぐ、俺たちは井戸へ向かった。
教員・来客用の駐車場のすぐ横にある茂みの奥にあるのは、先生から聞いて知っていた。
茂みと言ったってそんなに深くもなければ大きくもない。ともすれば、駐車場側から碑が見えるようなところだ。
ちなみに、井戸の周りは、慰霊碑と井戸の曰くをつづった看板、そして井戸の名前を書いた碑が、それぞれ立っている。
俺たちは、あっさり井戸へ辿りつくと、一人ずつ覗き込んでみた。

「なんか見える?」
「いや、何にも。お前も覗いてみろよ」

そう言われて、俺も覗く。何も見えない。当たり前だ、枯れ井戸なんだから。
けれど、その井戸を覗き込んだ瞬間、なんだか背筋がひんやりとした。

(…なんか、気持ち悪い)

俺の率直な感想はまさにそれだった。枯れている上、年月を重ねて積もった土のせいで、井戸というよりはただの穴だ。しかも、落ちたって登ってこれそうな深さだというのに、それでもなんだか気持ち悪い。

 

286: 本当にあった怖い名無し 2019/10/29(火) 00:25:00.68 ID:by+FRkPI0

「拍子抜けした。ただの穴だな、あれ」

きっと皆つまらなかったんだろう、確かに碑と看板がなければ、本当にただの穴だ。
それに適当な相槌を打ちながら、俺たちは茂みの外へと出た。

「暑いな、今日」

まだ5月なのに、もう真夏なんじゃないかってぐらい暑かった。
茂みの外へ出た途端、汗が出るぐらい――いや、待て。おかしい。
俺は、思わず井戸のある茂みを振り返った。井戸の名前が書かれた碑が、茂みから顔を覗かせている。
そして、井戸はあの碑のすぐ後ろに、ある。

「なんだよ、どうしたんだ」
「…いや、別に」

友人に呼ばれ、止めていた足を動かす間にも、太陽はじりじりと照りつけ、汗が出てきた。
アスファルトのせいだろうか、遠くの方には薄い蜃気楼のようなものが見える。
暑い、本当に暑い。

でも、茂みの中は、とても涼しかったのだ。

俺たちが歩き、汗を流している場所から数メートル程度の場所で、碑が見える程度に草や木の刈られた場所にあるのに、あそこはとても涼しかった。
かといって風通しがいい場所では決してない。どちらかといえば、熱の籠もるような木々の生え方をしている場所だ。
それに気付いた途端、先程感じた気持ち悪さが再び俺を襲った。
なんとも言えない、怖いわけではない、どちらかというと悪寒に近い感じ。

それから俺は、一度もあの井戸へ寄りつかなかった。

 

287: 本当にあった怖い名無し 2019/10/29(火) 00:26:09.27 ID:by+FRkPI0

次の年、自殺者が出た。
俺たちの通っていた三年制の高校じゃあなく、同じ敷地にある、中高一貫六年制の生徒だった。
それが井戸と関係があるかと言われたら、今も昔もそういう風には思っていない。
でも、別の校舎の人間とはいえ、同じ学園に通う人間が自殺したわけだ。家に帰り、その話を兄貴にしたら、ああ、って顔をされた。
兄貴は、俺の通う学校のOBだ。

「俺の時もあったよ。三人ぐらい死んだ。あの学校、しょっちゅう人死にでるから」
「…自殺?」
「そう、自殺」

聞くところによると、わりと頻繁(といっても年に何人もってわけじゃあないが)に自殺者が出ているようだった。
学校の近くに、自殺の名所があることも関係してるんじゃなかろうか、とのこと。
この自殺の名所については割愛させてもらうが、それでもわりとよく聞く話だ。
でもさ、と兄貴は言う。

「皆、”曰くつきの井戸”ってのに気を取られて忘れてるんだろうけど、あの井戸で死んだのは女中ばっかりだ。どういうことかわかるか?」

俺は、その時初めて気付いた。
確かに、井戸に気を取られて忘れていたこと。

「武士たちが、炎の中で切腹して死んでいったのはどこだと思う?…お前たちが生活してる敷地だよ」

いいか、あの慰霊碑は井戸の慰霊碑だ。なあ、あそこ以外に慰霊碑なんてないだろ。
それを聞いて、鳥肌が立った。

今も、その高校はしっかり存在してる。
自殺者と、あの土地の曰くが繋がっているかどうかはわからない。今の校舎は旧校舎を取り壊して作った新校舎で、すごく綺麗だから、井戸の話以外に怪談も聞かない。

あんまり怖くなかったな。長くなった。ここまで読んでくれた人、ありがとう。
そうだそうだ、もし井戸を見に行きたいって思っても、敷地内に勝手に入ると通報されちゃうから気をつけてくれよ。

 

288: 本当にあった怖い名無し 2019/10/29(火) 00:32:46.26 ID:by+FRkPI0

って、書いたんだ。新しい校舎だから今はどうってこないって書いたんだ。
卒業して随分経つから書くけど、嘘をついた。

続きがあるんだ。

井戸の話は全て本当。自殺者が出たことも、兄貴の在学中に人死にが出たことも。でも俺は先生の言う火の玉なんて見たことはなかったし、信じてもいなかった。

俺は在学中、旧校舎に入り浸ってた。その校舎は文学系の部室に使われるばっかりで、人付き合いが面倒くさかった俺は、長い休み時間はそこを使ってた。文系の部員だったから。

 

289: 本当にあった怖い名無し 2019/10/29(火) 00:36:00.57 ID:by+FRkPI0

旧校舎は胡散臭い昔話も多かったよ。でも、それも信じてなかった。
鎧武者の歩く音がするだとか、とっくに焼却炉は使用禁止なのに、何か燃える音や臭い、悲鳴がするだとか。さっきも言った通り、俺は信じてなかった。実際、そんな体験もしなかったし、古戦場も城跡も、いくらだって日本にはあるんだから。

俺は美術室にしょっちゅういたんだけど、そこに、俺と同じように、一人で弁当を食べに来てる奴がいた。
男子生徒で、学年は俺と同じだと言ってた。大きい学校だったし、進学クラスだの、そうでないクラスだので、クラスも多かったから、顔見知りじゃなくても不思議はなかった。

 

290: 本当にあった怖い名無し 2019/10/29(火) 00:40:51.37 ID:by+FRkPI0

美術室は日当たりもいいし広い。
何とは無しに仲良くなった。高三の頃の話だから、約一年近く、そいつと昼飯食べてたことになるな。
家はどこそこだ、クラスの連中はどうだ、テストがあれば、テストはどうだっただの、たわいもない話をした。
帰宅部だと言っていた。自転車で通っている、とも。名前もはっきり覚えてる。ちょっと変わった苗字だった。

卒業して、ついこの間までただのいい思い出だったんだ。同級生が結婚するってんで、高校の誰それも出席するとかしないとか。名前を聞いたら、顔の思い出せない奴もいたから、卒業アルバム引っ張り出して確認してた。ああこいつか、覚えてる覚えてる、って。

 

291: 本当にあった怖い名無し 2019/10/29(火) 00:47:38.90 ID:by+FRkPI0

それでふと、美術室にいたあいつを思い出した。名前は覚えてるのに顔が思い出せなくて。

アルバムをめくって、めくって、探した。
いなかった。そんな名前のやつ。学年が同じなのは間違いない。卒業式の前に退学した?いや、そんなはずもない。だって、卒業アルバム用の写真が面倒くさかったとか、そんな話だってしてたんだ。覚えてるんだ。
なのに、いないんだ。

俺たちの学校は、制服だけじゃ学年の見分けがつかない。上履きの色で区別する。上履きの色は同じだった。だから同じ学年なのは間違いなかった。
怖くなって、嫌な予感がして、もういい歳だってのに、兄貴に電話した。◯◯って名前の男の子知ってるかって。兄貴はOBだから、もしそいつに兄弟姉妹がいたら、わかるかもしれないと思ったんだ。

 

292: 本当にあった怖い名無し 2019/10/29(火) 00:55:28.30 ID:by+FRkPI0

結論から言うと、兄貴は知ってた。
兄貴の代で死んだ男子生徒の名前だった。

さっきも言ったけど、俺たちの学校は上履きで学年を判別する。新入生は、卒業生の色を履く。順番に順番に、色が巡る。
兄貴と俺は、その色が巡るスパンの関係で、同じ色の上履きだったんだ。

そういえば、美術室以外であいつに会ったことはなかった。マンモス校だから、同じ学年でも過ごす階が違ったりするから…すれ違ったことすらなかったことに対して、いくらでも言い訳はできる。

でもな、なんとなく、悲しくなったんだ。
あいつは今でも美術室にいるんだろうか。
美術室しか居場所がないのか。美術室に思い入れがあるのか。話し相手、俺なんかで本当に良かったのか。

また長くなった。でも、どうしても吐き出したくて、書き残しておきたくて、書かせてもらった。
どこの高校かわかった人がいたら、お願いしたいことがある。美術室にいるやつは、少なくとも悪いやつじゃないんだと思うんだ。
よければ話し相手になってやってほしい。長い間、あいつがひとりぼっちだって気付けなかった俺の、精一杯のお願いだ。

読んでくれて、ありがとう。

 

[死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?357]
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