3分で読める怖い話

トンネル

今から15年くらい前の話なんだけど、突然思い出したから聞いて欲しい。
大学の友達と夏休みの間に飲み会をした。
当たり前だけど、その時はまだコロナウイルスの「コ」の字も無かったから飲み会なんてやりたい放題だし、その日も2次会、3次会と場所を変え、メンバーもちょっとずつ増えたり減ったりしながら、いつの間にか日付が変わる時間になっていた。

田舎だから終電も中々に早くて、そろそろ終電も無くなるからっていう理由で電車組は日付を跨ぐ前に帰っていった。

そこで残ったのが、俺を含めた4人。
一人は俺の親友のヤマグチ。
ヤマグチはまったく酒が飲めない下戸の癖に、何故かノリが良くていつも飲み会の最終会までしっかりと残っているような奴だった。
飲み会の度に俺はいつもヤマグチの車に乗せてもらって、ヤマグチの家に一泊し翌朝自宅まで送ってもらうというのが定番だった。(タクシー代と宿泊費も兼ねて、ヤマグチの割り勘費用の一部は俺が支払っていた)

今日もそろそろお開きにしようかと言う時間になった時、急にヤマグチが

「なあ、せっかく夏だし肝試し行こうぜ」

なんて言い出した。
いつもはこのままヤマグチの自宅に一緒に帰って一泊させてもらう流れだったけど、今日は他の2人も後から合流した面子だった為かまだまだ全員元気で、酔いも手伝ったその場のノリで肝試しに行く事が決定してしまった。

運転は素面のヤマグチ。
助手席には俺。そして後部座席にはもう2人が並んで座った。

「肝試しってどこ行くんだよ」

「ちょっと待ってて、調べるわ」

そういって、ヤマグチは胸ポケットから取り出した二つ折りのガラケーをポチポチ操作して、近くの心霊スポットを検索し始めた。

「〇〇トンネルって所が出るらしい」

「遠いの?」

「うーん、こっからだと車で30分くらいかな。夜だから飛ばせば20分しないで着くだろ」

そんな会話をして、俺たちは何の迷いもなくそのトンネルに肝試しに行くことにした。

学生のノリと酒の勢いもあって、車内は大盛り上がりだった。
もし幽霊を見たらどうするかとか、貞子が本当に出てきた場合にデートに誘う方法を考えるとか、くだらないネタでゲラゲラ笑いながら片道30分のドライブを楽しんだ。
気心の知れた友人とのドライブはあっという間で、気づいたら俺たちの目の前には曰くつきのトンネルがぽっかりと口を開けて佇んでいた。

「うひょー。こうやって見ると何だか雰囲気あるなぁ」

ヤマグチが運転してくれた車からぞろぞろ降りてきた俺たちは、暗闇に佇むトンネルを見上げてその迫力に少しだけビビっていた。

「でも、真っ暗じゃなくてよかったな」

「俺、真っ暗だったら絶対ここから動けない自信あるわw」

そこは、未だに使われている山の中にあるトンネルで、くすんだ色の電灯が中を照らしていて薄明るい。
トンネルの出口までしっかりと見通せるため、不気味さはあまりない。
真っ暗なトンネルを歩く事にならなかった事に少しだけ安堵しつつ、俺たちはジャンケンでトンネルを歩く順番を決める事にした。
公正なジャンケンの結果、俺とヤマグチ、あとの2人がそれぞれペアを組んでトンネルの奥まで行って帰ってくる事になった。

「じゃあ、第1グループいきまーす!」

ガラケーのカメラを構えたヤマグチと俺は、入り口で待っている二人に手を振ってさっそくトンネルの奥へと進んでいく。
距離にして約50メートル。
中は明るく綺麗に舗装されていて、心霊現象が起こるような雰囲気は一切なかった。

「なんか、入ってみると案外普通だな」

「そうだなぁ」

ヤマグチはガラケーでムービーを撮っているのか、キョロキョロとあたりにカメラを向けながら歩いている。
もしかしたら何かが起こるかもしれないと身構えていたのも最初だけで、20メートル程歩くと、もうすっかりトンネルの雰囲気にも慣れてしまい俺とヤマグチは談笑しながらあっと言う間に出口へと辿りついた。

「ここが出口か」

「何にもなさそうだな」

出口から先も舗装された道路になっていて特に何かが起こりそうな雰囲気もない。

「本当にここが心霊スポットだったのか?」

「そのはずなんだけどなー」

振り返って入口を見れば、俺たちの様子を出入口で見守っている二人がこちらに手を振っていた。

「帰るぞー!」

結局、怖がっていたのは最初だけで、俺とヤマグチの第一グループも、残りの2人の第二グループもほんの十数分の間に何事もなくトンネルの往復を終えてしまったのだった。

「ムービーにも何も映ってないなぁ」

「そうだなぁ」

車に戻り、お互いが撮影したムービーを確認する。
しかし、ヤマグチがトンネルで撮ったムービーにも他の二人が撮った写真にもムービーにもそれらしいものは何一つ映っていなかった。

「まあ、無事に終わって万々歳って事だな」

酔い覚ましにはちょうどいい時間つぶしだったのかもしれない。
肝試しの後、俺とヤマグチはあとの二人を自宅まで送り届け、ヤマグチの自宅へと戻った。
勝手知ったるヤマグチの家に上がり、シャワーを浴びて客用の布団に潜り込む。
俺もヤマグチも寝る前にはすっかり肝試しの事なんて頭の中から消えてしまっていた。

しかし翌朝、思いがけない事が起こる。

「おい!起きろ!!起きろって!!」

今にも蹴とばし兼ねない勢いでヤマグチが俺をたたき起こした。

「な、なんだぁ……?」

時計をみたらまだ朝の8時。
寝ぼけまなこの俺はぐいぐいと腕を引っ張ってくるヤマグチを見上げて間の抜けた声を上げた。

「ヤバイんだってば!!早く駐車場に来てくれよ!!!なあ!早く!」

「分かったって、引っ張るなってば」

血相を変えたヤマグチに引きずられるように寝巻のまま駐車場へ行く。
そこで見た光景に俺は言葉を無くした。

 

 

 

 

 

俺たちが昨日乗っていたヤマグチの車の車体には。
無数の手跡が隙間なくびっしりと付いていた。

この車はトンネルには入っていない。
霊はトンネルの中にいたわけじゃなかったのだ。

 

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